広島市南区的場町の心療内科|そごう心療内科クリニック

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Q&A

心のかぜ うつ病

47歳の男性。剣道の昇段審査後1週間して寝つきが悪く、朝早く目が覚め熟睡できず、食欲も落ち、頭が重く、腹に痛みを感じます。他科では、異常がないといわれました。合格したのにどうしてでしょうか。
この方の場合、他科では異常がないということでしたので、俗に言う“燃え尽き症候群・肩荷おろしうつ病”の抑うつ状態の初期と思われます。

抑うつ状態はどのような病気から起こりますか

抑うつ状態は、内因性うつ病・躁うつ病、脳神経疾患・ホルモン失調・薬物使用等から起こる症候性うつ病、環境変化にうまく順応ができないために起こってくる反応性うつ病等からも起こります。この様なうつ状態を、気分障害、または感情障害とアメリカ式に呼ぶ場合もあります。

どうして抑うつ状態が起こるのでしょうか

抑うつ状態になり易い性格があります。真面目・几帳面・完全主義・執着性が強い・他人への配慮が強すぎる等の性格の人は抑うつ状態になり易いと言われています。
この様な性格を、うつ性格と言います。この性格は必ずしも悪い性格ではありません。この性格がプラスの方向へ向かった場合は良い結果を生みますが、マイナスの方向に向かった場合は神経が大変疲れて、抑うつ状態、またはうつ病になる場合があります。
人の脳の中には、いろいろな働きをもったいろいろな神経伝達化学物質があり、その働きによって元気が出たり、眠りを起こしたり、自律神経やホルモンのバランスを調整したり、痛みを抑制したりします。
車に例えれば、脳の中の神経伝達化学物質が車のガソリンに当たります。うつ性格の人はこれらのガソリンをバランス良く使うことが出来ず、車のアクセルを踏みすぎてガソリン欠乏を生じます。
この様なガソリン欠乏の状態が、抑うつ状態です。

昇段審査という目標に向かってあまりにも一生懸命になり過ぎ、自分の持っているエネルギーを使い切ってしまい、つまり燃え尽きてしまって、睡眠障害(寝つきが悪い、早く目が覚める、熟睡できない)
・食欲低下・身体の変調(頭痛・腰痛・肩こり・目まい等)などの症状がでてきたのです。この状態は初期の状態ですが、更に悪化すると抑うつ気分・意欲低下・イライラ感・空虚感・自己過小評価・自殺念慮などの精神症状が現れます。
なかには、身体症状が前面に出て、本来のうつ症状である精神症状が、身体症状に覆い隠されて、身体の変調のみを訴えている場合があり、これを仮面うつ病と言います。
また、心の病は身体病と違って、周囲の人に理解されがたい点があります。心の中は大変なうつ状態であるのに、周囲に気を使って微笑んでいる場合があります。これを微笑うつ病と呼んでいます。
うつ状態の初期症状である不眠・食欲不振・身体の変調等があり、他科で異常がない場合は専門医に早めに相談してください。

治療の方針

基本的には薬物療法と精神療法を併用して治療します。多くの場合、2~3週間で作用があらわれ、2~3ヶ月でほぼ元の状態に戻りますが、その後2~3ヶ月の症状の安定期を確認して治療を打ち切る方が、再発が防止できます。薬は精神安定剤・抗うつ剤・漢方剤などがあります。うつ病は、他の心の病気と比べて、比較的メカニズムが解明され、新しいクスリが開発されています。医師の指示に従って服用すれば、特に副作用を気にする必要はありません。他にも光線療法・電気けいれん療法があります。
うつ病の治療で、問題になることは、死にたくなることです。この様な気分になった時は、必ず、身近な人にSOSの信号を送ることが大切です。うつ病は、誰でもかかる心のかぜです。
くしゃみ3回ルル3錠という昔のテレビコマーシャルがありましたが、早期発見して、早期に治療を受ければ、大抵の場合、改善することができます。

病気の対策と助言

この病気は、完全・徹底・執着性性格の強い方ほど生真面目に取り組みすぎ、燃え尽きて、うつ状態に陥りがちです。ですから、うつ状態にある人には、「ガンバレ!」と叱咤激励しないことです。まわりも相手の心身の特性を見極めて、心のケアーの原則


  • 頼りの人となること。
  • 説得より納得。
  • 受入れ、良い点を見出し、良い点でつき合う。
  • 窮地に追い込まない。
  • 相手のペースに合わせる等

に従って、その特性に応じて柔軟に接することが必要です。また、うつ状態になり易い性格の人は、環境の変化(転勤・転居・昇進・職場の変化・退職・更年期・出産等)に気を付ける事が大切です。
ご質問の方の場合、このような状態にならないために、まずのんびりと柔軟に取り組み、苦しむ剣道から楽しむ剣道に変えることです。
私も剣道をたしなむひとりとして、まずは心身の健康を第一とし、目一杯の稽古よりも余裕残しの稽古“あるがまま”に物事にこだわらず、運命という波に逆らわず、楽しい自然な剣道を、対決でなく調和と共存の剣道を心がける事が大切と考えております。
(この記事は、院長が依頼を受けて全日本剣道連盟の『剣道医学』に寄稿したものです)

ひとりで悩んでいませんか?

うつ病って?
うつ病は、何かをきっかけに気分が沈み、生きる活力を失って、その結果、腰痛や胃痛、頭痛など身体に不調が現れてくる病気です。早期発見・早期治療で改善することができますが、身体の不調が目立つばかりにほかの病気と勘違いをしてしまいがちです。これを「仮面うつ病」と言います。この場合、まず身体の一部に不調を感じることから、内科や外科、婦人科などを受診することが多いようです。しかし、検査では異常を見つけることができないため、他の病院を転々とする間、症状はますます悪化、初期段階では本人は全く気づかず、自覚した時には、既に重くなっていた・・・というケースも少なくないのです。

うつ病の危険性

うつ病においての問題は、症状が進むと死にたくなる、つまり自殺願望が出てくることです。現在、日本経済は出口の見えない闇の中にあり、その余波は完全失業率が平成13年3月からほぼ一貫して5%台を維持するなど、私たち国民の生活に影を落としています。そういった経済状態の影響か、バブル崩壊後の1998年(平成10年)からの自殺者数が急増、特に40代・50代のいわゆる中高年男性の激増が顕著です。2001年をみると、40代と50代が全体の40%を占めているという状況です。
ストレス社会の現代、うつ病は特別な病気ではありません。誰もがうつ病になる可能性を持っているのです。ただし、その中でもうつ状態になりやすい性格、いわゆる“うつ性格”の人がいます。責任感や義務感が強い、正義感が強い、几帳面、完全主義者、正直等・・・むしろ他人からすれば信頼できる好ましい性格の人達です。この性格がプラスの方向に向かえば、何事においても非常にいい結果を生みだすことができるでしょう。しかし、マイナス方向に向かった時、うつ病になる可能性が高いのです。

人間の脳の中には、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達化学物質があります。気分を明るくしたり、眠りをおこしたり、痛みをおさえたりする、自律神経やホルモンのバランスを調整するなどいろいろな働きを持っていますが、心にストレスがかかるとそれらの物質は減少してしまい、本来の機能を果たさなくなってしまいます。これを車に例えてみると、脳の中の物質が車のガソリンに当たります。うつ病になりやすいタイプは、ガソリンの使い方のバランスが悪く、車のアクセルを踏みすぎてガソリン欠乏を引き起こします。このガス欠がうつ状態にあたります。目標に向かいあまりにも頑張りすぎて、自分の持っているエネルギーの全てを注いでしまう・・・つまり完全燃焼してしまい、目標を達成した後、何をしていいか分からない空虚感に襲われてしまう時が危険です。いわゆる“燃え尽き症候群・肩荷おろしうつ病”です。状況にもよりますが、時には適度に力を抜くことも必要でしょう。
また、病気ですから本人の努力だけでは直すことはできません。時にデリケートな問題ですから、治療には家族や会社など周囲の協力は不可欠です。とにかくうつ状態にある人には「頑張って」などと叱咤激励せず、


  • 頼りの人となること
  • 説得より納得。
  • 受入れ、良い点を見出し、良い点でつき合う。
  • 窮地に追い込まない。
  • 相手のペースに合わせる等

に従って柔軟に対応することが大切です。特に家族の人は上記にあげた内容のことに気をつけてあげてください。

早期発見・早期治療をめざして

ある調査(※)では40代・50代の自殺者のうちの約30%しか精神科や心療内科といったいわゆる「心の診療所」にかかっていなかったということです。
決心する前に一度でも通院していれば、助かったであろう人がいると思われます。その人の環境や悩みの重さにもよりますが、他人に話を聞いてもらうことで心が軽くなり、改善の方向へ進んでいくこともあります。前述の通りうつ病は早期発見・早期治療が大切です。昔と違い「心の診療所」に対しての偏見は薄くなっています、とにかく不眠や憂うつ、胃痛などの身体の変調を感じたら、できるだけ早く「心の診療所」に相談に行きましょう。初めてで不安な人は、とりあえず電話をかけて相談してみてください。

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うつ病の方に接する時の注意点

うつ状態は一時的であると伝える
つらいのは病気が原因。一時的なものなので必ず抜け出せることを本人に納得させる。
会社を休ませる
会社と連絡を密にとったうえでとにかく休ませる。
自殺しないと約束させる
危険性があるようだったら、自殺しないよう約束させる。
重大な決心をさせない
うつ状態の時は判断力が低下し、マイナスな方向に向かいがち。病状が好転すると後悔するので、物事を決定させない。
ゆっくりのんびりさせる
気分転換に無理矢理旅行や運動などに連れ出さない。ゆっくり休養することを優先させる。
激励や指示は禁物
指示することはもちろん「がんばれ」など励ますのはかえって逆効果。
さわぎたてない
本人に合わせて、周りが騒いだり沈んだりするのは禁物。おだやかに本人の言うことを聞く。
薬は医師の指示通りに
「改善が見られない」「急いで直したい」からといって、指示された以上の量を与えない。
見舞客はできるだけ断る
元気づけようとすると、かえって落ち込んでしまうこともあるので、せっかくの好意でも安易な見舞客はできるだけ断る。

五月病は心の風邪

ストレスを理解して自分でコントロールを。

環境の変化が主な原因

周りの環境が大きく変化する季節が一段落したころ、それまで行動的だった人が、不眠、食欲不振、めまい、動悸など。さまざまな体の変調を訴えることがあります。新しい世界に適応しようと無我夢中になっていた時期が終わり、自分を見つめ直す心の余裕が生まれた時期に多い症状で、俗に「五月病」と呼ばれています。特に生真面目で、物事に強くこだわる性格の人に多いといわれています。

ストレスと上手にお付き合いを

具体的な対策は、まず原因を理解すること。自分が何にストレスを感じているのかを知ることが大切です。その上で、物事を良い方に考えたり、悩みを打ち明けられる友人や家族、心から打ち込める趣味を持ちましょう。
五月病は自分を見つめ直して次のステップに進むチャンスでもあります。自分なりにストレスと上手に付き合う方法を見つけていきましょう。
(この記事は、院長が依頼を受けて中国新聞暮らしの情報誌『フェニックス』に寄稿したものです)

神経性食欲不振症 激痩せ

17歳の娘がいます。以前は身長160cm、体重58kgでしたが、もっと魅力的になりたいとの痩せ願望が強くなり、6ヶ月後に43kgの体重となり、月経もなくなりました。拒食症でしょうか?(47歳女性)
俗に言う「拒食症・思春期痩せ症」です。20歳前後の若い女性に多く見られます。気質的及び精神的疾患がないのに、これまで見られなかった異常な食行動や痩せが見られ、神経性食欲不振症と呼ばれています。最近では、発症年齢が低年齢化する一方、成人から既婚者まで幅広く見られ、男性にも認められます。カレン・カーペンターという女性歌手が、この病に悩んだことで知られています。

神経性食欲不振症とは

厚生労働省研究班の診断基準は、


  • 標準体重がマイナス20%の痩せ
  • 食行動の異常[拒食・大食い・隠れ食いなど]
  • 体重や体型に関するゆがんだ認識[体重増加に対する恐怖]
  • 発症年齢30歳以下
  • 無月経を初めとする内分泌障害
  • 痩せの原因と考えられる気質的疾患がない

などです。

どうして病気が起こるのでしょうか

まだ、明らかではありませんが、20歳前後の思春期の女性に多く見られます。思春期は、心身ともに大きく変化し、心理的にも不安定な時期です。
コーピングスキル[ストレスを適正に処理する能力]が未熟な場合に、悩みが自分の体型や体重に向かい、痩せ願望と肥満への恐怖が生じると言われています。
現代の女性は、痩せてスマートになって人に認めてもらいたいという社会的・心理的要因があり、コマーシャリズムが、それに拍車をかけています。
家族的要因として、親の過保護・過干渉・支配に対して、ダイエットにより自分の体重をコントロールすることによる達成感と存在感を感じ、拒食を通じて自分の存在感を誇示するとも言われています。
また、成人として成熟することへの不安も一つの原因とされています。
神経性食欲不振症は、性格・家族的・社会的・心理的要因が複雑に絡み合った心と身体の病気です。

            

どんな症状でしょうか

予後の良いものから、人格障害を背景に持つ重症例までさまざまです。
本来、食欲が欠如しているわけでなく、食べたいという欲求にかられながら節食を続けます。このようなダイエット期間が続くと、脳の食欲中枢に悪影響を与え、食べようとしても食べられない状態になり、病状が悪化します。
無月経・低血圧・脈拍数の減少・低体温・冷え性・背中のうぶ毛・顔や手足が黄色になるカロチン症・むくみなどの身体症状も見られます。精神的にも、不安・抑うつ状態が合併し、重症例では生命の危機にさらされる場合もあります。

治療・予防について

体重が30%~40%以下になれば、運動も苦しくなり入院治療が必要になります。節食による全身状態の悪化を治療すると同時に、心理面の治療とケアが大切です。食行動の異常の裏にある心理的な問題に注目して、自分の身体に対する誤った認知のゆがみの是正、コーピングスキルの育成などを心理療法や認知行動療法などを通じて行う必要があります。
治したいという気持ちが、患者さんの心のどこかにあれば治療が可能です。時間がかかっても、焦らず、心のケアを続ければ、健康な心がよみがえってきます。自分が病気であるという認識がないので、 周囲の人が早く患者さんの急激な体重減少に気づいて、心療内科または精神科の診察を受けることが大切です。
食の欠乏の時代は、ルノワールの絵のようにふくよかな体型に美しさを見出していましたが、文明の発達による物質過剰は現代人の人生の価値観を変質させ、人為的節食による痩せ状態に人生の価値観を見出すようになっています。
神経性食欲不振症は、物の欠乏した国には見られず、物の豊かな国に多く見られます。真の豊かさとは何かを、この病気を通じて再考させられます。
(この記事は、院長が依頼を受けて全日本剣道連盟の『剣道医学』に寄稿したものです)

抑うつ状態

審査後、寝つきが悪く、朝早く目が覚めます。食欲がなくなり、頭が重く、腰に痛みを感じます。他科では、異常がないと言われました。どうしてでしょうか?(47歳女性)
俗に言う、“燃えつき症候群”の抑うつ状態の初期と思われます。

最近のうつ病について

時代の変化と共に、従来の定型うつ病(中高年層に多く、生真面目、責任感が強く、他者的配慮が強い方に多い)は少なくなって、現代うつ病と呼ばれている非定型うつ病(20~30代の女性に多く、自己愛的、気分反応性、過敏性が強い、他罰的な性格の多い)が増加しております。
症状も定型うつ病とは異なる症状を示します。また、うつ状態の中に、躁状態(多弁・多動・自信満々・考えが次々飛ぶなどの症状)を示す場合は、鬱と躁の二つの極があるので、このような精神状態を双極性障害と呼びます。躁状態が強い場合は、生活面でトラブルが起こります。
従来の定型のうつ病と非定型のうつ病と双極性障害の治療は、それぞれ異なります。

どうしてうつ状態と躁状態が起こるのでしょうか?

人の脳の中には、いろいろな働きをもった神経伝達化学物質があり、その働きによって元気が出たり、眠りを起こしたり、自律神経やホルモンのバランスを調節したり、痛みを抑制したりします。車で例えれば、ガソリンが神経伝達化学物質に当たります。
この方は、昇段審査に向けて余りにも一生懸命になり過ぎ、必要以上にアクセルを踏みすぎて、ガソリン欠乏を起こしてうつ状態になったと考えられます。躁状態がどのようにして起こるかは、まだよく判ってませんが、遺伝子や細胞内のカルシウムイオンなどが関係していると言われています。
精神疾患は、内科・外科などの疾患と違って、その人の性格・育った環境・考え方・今の置かれているいろいろな状況によって、いろいろな影響を受けます。うつ状態や躁状態や不安状態なども複雑に絡み合って、それぞれ微妙に訴える症状が違います。

うつ・躁状態と双極性障害の症状、及び治療について

従来型のうつ病の症状は、すべてのことに関心と喜びを消失し、抑うつ感、入眠障害・途中覚醒・早朝覚醒・食欲低下・朝方倦怠感・罪責感などがあります。非定型のうつ病の症状は、すべての事に関心と喜びを消失する事はなく、楽しい事には喜びの感情を表します。
従来型とは違って、食欲増加、過眠、夕方から調子が悪い、自己中心で他罰的で過敏な傾向を示します。双極性障害は、うつ状態に躁状態が入ります。その入り込む躁状態の程度が強い場合はⅠ型、躁状態が軽い場合はⅡ型の双極性障害と呼びます。Ⅱ型は少し調子が良すぎるぐらいですが、Ⅰ型になると、社会生活の上で問題が起こります。
従来型のうつ病には、元気が出る神経伝達化学物質であるセロトニン・ノルアドレナリンなどを増やす比較的新しい抗うつ剤があり、良く効きます。しかし、効果が現れるまでに、約2~3週間の時間を必要とします。患者さんの置かれているそれぞれの状況によりますが、順調に経過した場合は、約2~3ヶ月で改善します。症状の方が先行して改善され、脳の機能の改善は症状よりも遅れて改善されるため、良くなっても2~3ヶ月は薬の服用が必要です。薬を止めるときは状況をみながら徐々にやめることが必要です。非定型うつ病は、いろいろな状況因子が加わってきますので、状況が改善されれば、簡単に良くなることもありますが、幼少期の育ち方、性格、考え方、今置かれている状況などが複雑に絡んできますので、従来型のうつ病に比べて、治療も抗うつ剤・精神安定剤・気分安定剤・抗精神病薬・睡眠導入剤などを使用し、少し治療が複雑になります。双極性障害の治療は、躁状態を鎮める薬を使用しますが、状態が悪化した場合は入院も必要な場合があります。 
すべての精神疾患に療法として薬物療法と精神療法があります。最近の精神療法に認知行動療法があります。多くの人は、自分の思い込みで物事を捉える傾向にあります。この思い込み、つまり認知のゆがみ・自分の考えのお決まりのパターン化(自動思考)・硬さがあることに気付き、気分本位ではなく、事実は事実として“あるがまま”に捉えることが出来るように変えて行く精神療法を認知行動療法と言います。
⇒ルビンの壺の図を参照

病気の対策と稽古への助言

うつ状態にある人には「ガンバレ」と叱咤激励しない事です。しかし、最近では若い人がうつ状態になって、引きこもり状態になる場合があります。この場合は、状態を良く観察して引きこもり状態になる前に、引き出し行動を取る必要がある場合もあります。病気が良くなったときの就労の時期・リワークへの誘導は、主治医・産業医・会社担当者と患者さんと十分に相談して環境調整し、
徐々に馴らして就労する事が大切です。うつ状態で、一番気を付けなければならない事は自殺行為です。病気の初期と改善時に自殺行為が多く見られます。患者さんが何か気弱な言葉を言った時は、SOSのサインと捉えて精神科医師に相談していただく必要があります。相手に対して、“あるがまま”の心境、剣道で言えば無心であり、相手と合気になり、勝敗は時の運と考えれば、余裕残しの剣道が出来ると思っています。
この患者さんのように燃えつき症候群にはならずに済むかもしれないと思います。

            

ルビンの壺

この図を見てください。白い色の壺に見えますか、黒色の対面している顔に見えますか。自分の心が無心・あるがままになっていれば、同時に壺にも顔にも見えてきます。試してみてください。

心的外傷性後ストレス障害(PTSD)

PTSDと診断され加療中ですが、完治しません。以前やっていた剣道を再開したら、少し症状が改善しました。PTSDについて教えてください(35歳女性)
PTSDは、極めて嫌な事件を体験することにより、大きな心の傷(トラウマ)となり、その時の恐怖記憶が脳の中に奥深くインプットされ、その記憶を消すことが困難になった不安障害の一つです。この方の場合は、一生懸命に剣道をされることにより、心が無心となり、過去の恐怖記憶から解放されたものと考えられます。適当な運動と日光を浴びると、脳内にセロトニンと言う神経伝達化学物質が増えると言われています。この物質は、PTSDの改善に役立つといわれています。

PTSDとは?

PTSD=Post-traumatic Stress Disorderの略です。生命の危機にかかわるような大きな事件(自然災害・交通事故・いじめ・身体的・性的暴力など)を自分自身で体験するか、他人が体験するのを目撃して、強い恐怖やストレスを受けることにより発症します。体験した嫌な場面が、自分の意志に関係なく突然頭の中に繰り返し襲ってきます。
これをフラッシュバックと言います。悪夢、不眠、異常に物事に過敏になり、不安が襲ってきて、手が震え、動悸、息苦しさ、冷や汗などのパニック状態になります。事件を思い出させるような所は避けるようになり、引きこもり状態になる場合もあります。余りにも大きな心の傷のために自分の心の中に、過去を忘れたい自分と今の自分があり、それを調整しようとしても出来なくなり、半分は自分で、半分は過去の嫌な思いに支配された自分が存在するような精神状態になる場合があります。一人の自分が解離した状態で、解離障害と言います。フラッシュバックや、自分が自分でない気がして周囲が漠然とする離人症や、もう一人の自分がいて関わって来ると言う二重人格的症状などを示します。
リストカット・過食・拒食・多量服薬など問題行動を起こす場合があります。時に、患者さん自身がPTSDのフラッシュバックを認識できない場合があります。医師に言われて初めて自分に起こっている異常な現象がフラッシュバックだと気付く場合もあります。また、医師の方も注意して診察しないと、統合失調症の幻聴と間違える場合が時にあります。
PTSDには、パニック障害・抑うつ障害・不安抑うつ発作・摂食障害などの合併疾患が伴います。

PTSDの成因

PTSDの成因については、いろいろと言われていますが、まだ良く判っておりません。ごく最近の研究では、PTSDの発症は、記憶や学習と密接な関係があるアセチルコリンという脳内神経伝達化学物質が脳の中で増加することと関係があるといわれています。早く解明されて、少しでも効果のある薬剤が出来ることを願っています。

PTSDの治療

             

PTSDの症状は他の精神疾患と比べ複雑でいろいろな症状を示します。薬も精神安定剤・抗うつ剤・気分安定剤・睡眠導入剤・抗精神病剤などそれぞれの症状に応じて使用します。多くの場合、改善には時間がかかります。医師と相談しながら根気よく治療を受けることが大切です。
薬物療法も大切ですが、PTSDに対しては、精神療法の中の一つとして暴露療法があります。嫌な心の傷はあまり触れずに心の片隅に閉まって置くという方法も一つのやり方かも知れません。しかし、このやり方では、心の傷がいつまでも心の片隅に残っています。逆の発想で、勇気を出して自分の嫌な触れたくない心の傷と対峙して吐き出すことにより、自分の心の傷をあるがまま冷静に見つめるとこが出来るよう導く精神療法を暴露療法と言います。この精神療法と薬物療法と合わせて治療すると改善が見込まれます。PTSDは、一時的に改善されても、ストレスが加わると悪化しやすいので、根気よく治療を受けることが必要です。PTSDの患者さんは、ご自分の生活リズムを崩している方が多いので、
ご質問を頂いた患者さんのように、生活リズムを整える勇気をもたれることが改善につながります。

PTSDの治療の発展

             

PTSDの治療は今までいろいろと言われてきましたが、まだ本当に効果がある薬物は見出されていません。現在、当クリニックのPTSD研究では、2015年アテネで開催された世界生物学的精神科学会、2016年ソウルで開催された国際神経精神薬理学会(CINP)で新しい薬物療法について発表して来ました。
更なる研究発展をして世界のPTSDに悩んでいる多くの患者さんを救いたいと願って頑張っております。